ご相談例

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医療広告ガイドラインについて

当事務所では、医療広告(看板広告やチラシ、ホームページ等)について様々なご相談を受けております。
この相談を受ける上で最重要な資料は、厚生労働省が定める「医療広告ガイドライン」と「ガイドラインQ&A」なのですが、院長先生にご説明しても、すぐに理解していただくのが難しい規制となっています。
そこで、そもそも医療広告はなぜこんなに複雑な規制になってしまったのか、という経緯を含めて、医療広告ガイドラインがどのようなものかについてご説明したいと思います。
 
医療広告を取り扱っていく専門家としては、この歴史的な経緯は理解しておく必要がありますが、専門家ではない方には理解が難しいところも多いと思います。
できるだけ分かりやすく説明するつもりですが、元が複雑すぎるのです。
参考程度にご覧いただければと思います。

1.「医療広告ガイドライン」とは何か

「医療広告ガイドライン」は、医療若しくは歯科医療に関する広告の規制範囲を周知し、医療機関に対し、広告適正化のための指導を行う目的で定められた厚生労働省の指針(ガイドライン)です。

この医療広告ガイドラインが、平成30年6月1日から大きく改正されたことはマスコミにも取り上げられましたので、医療関係者の方々においても、「ホームページも規制されることになった。」とか「患者の声もアウトになった。」など、断片的な情報はいろいろと流れていると思います。
ここでは、この医療広告ガイドラインの大きな流れを理解しておきたいと思います。
 
なぜ医療広告において、このような「ガイドライン」が定められたのでしょうか。
私たちの生活や業務を規制するための法令はたくさんありますが、すべての法律に「ガイドライン」が定められているわけではありません。
医療広告について、このような「医療広告ガイドライン」が定められた経緯を見ていけば、医療広告を取り巻く現在の複雑な状況が分かっていただけると思います。
以下では、医療広告を規制する法令について説明し、「医療広告ガイドライン」が定められた経緯を説明したいと思います。

2.改正医療法の
広告規制

医療に関する最も重要な法律として、医療法があります。
医療広告に関する規制もこの医療法の条文を根拠にしています。
平成29年6月14日、この医療法の広告に関する条文(第6条の5)に大きな改正がなされました。この改正医療法は、平成30年6月1日より施行されています。
 
改正医療法第6条の5では、次のような規定の仕方をしています。

医療法第6条の5

第1項

広告の定義=「文書その他いかなる方法によるを問わず、広告その他の医療を受ける者を誘引するための手段としての表示」
虚偽広告の禁止

第2項

  • ①比較優良広告の禁止
  • ②誇大広告の禁止
  • ③公序良俗違反の広告の禁止
  • ④その他、厚生労働省令で定める基準

第3項

「次に掲げる事項以外の広告がされても医療を受ける者による医療に関する適切な選択が阻害されるおそれが少ない場合として厚生労働省令で定める場合を除いては、次に掲げる事項以外の広告をしてはならない。」

「虚偽広告の禁止」「比較優良広告の禁止」「誇大広告の禁止」などは、比較的イメージがしやすいと思います。
ガイドラインに例に挙がっているような、「どんなに難しい症例でも必ず成功します!」などという「絶対」を謳う広告は、「虚偽広告」として問題があることは、イメージしやすいですよね。
このように、「やってはダメな広告」を列挙するやり方を「ネガティブ・リスト」方式といいます。
虚偽はダメ、比較もダメ、誇大もダメ、公序良俗に反する下品な広告もダメよ、というのは理解しやすいと思います。
 
では、第3項はどうでしょうか。
「次に掲げる事項以外の広告がされても医療を受ける者による医療に関する適切な選択が阻害されるおそれが少ない場合として厚生労働省令で定める場合を除いては、次に掲げる事項以外の広告をしてはならない。」
との文章の後に、「一 医師又は歯科医師である旨」「二 診療科名」・・・と続きます。
法律の専門家でもなければ、最初の文章で、「何だこりゃ。」「日本語か?」とノックアウトされると思います。
普段法律を取り扱っている弁護士でも、一見してこの条文の意味が分かる方は少ないと思いますので、専門家ではない方は分からなくても当然です。

3.医療広告規制の流れ
(ポジティブ・リスト及び包括規定方式)

実は、この条文を理解するためには、改正前の医療法における医療広告規制を知っておく必要があります。
改正前の医療法第6条の5の、最初の一文を引用しましょう。

医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関しては、文書その他いかなる方法によるを問わず、何人も次に掲げる事項を除くほか、これを広告してはならない。

「文書その他いかなる方法によるを問わず」「何人も」という厳しい文言の後、「次に掲げる事項を除くほか」「これを広告してはならない。」と続きます。
医療機関が広告しても良い内容は、この条文に記載されたことに限る。それ以外の事柄については、「いかなる方法によるを問わず」「何人も」「広告してはならない」ということです。
 
要するに、「国が『やって良い』ということだけやって良い。それ以外は全部ダメ。」という規制の仕方であり、非常に厳格であることが分かると思います。
それでは、国が「やって良い」という広告は、具体的にはどのような内容なのでしょうか。
旧医療法第6条の5第1項を、もう少し見て見ましょう。

  • 一  医師又は歯科医師である旨
  • 二  診療科名
  • 三  病院又は診療所の名称、電話番号及び所在の場所を表示する事項並びに病院又は診療所の管理者の氏名
  • 四  診療日若しくは診療時間又は予約による診療の実施の有無

「広告なんだからこんなの当たり前じゃないか!」という声が聞こえてきそうです。
広告ですので、「病院の名称」を書くのは当然です。書かないと宣伝になりません。
しかしながら、医療法の広告規制は、「お上が『やって良い』ということだけやって良い」という規制方法なので、このような当たり前のことも列挙しなければならないのです。
 
このように、「『やって良い』ことだけをリスト化する」方法を「ポジティブ・リスト方式」と言います。
「限定列挙」された項目のみを許可するというやり方です。
医療法における広告規制は、長年にわたり、このような「ポジティブ・リスト方式」のみを採用してきました。
 
なぜ医療広告がこのような厳しい規制を受けるかというと、次のような考え方が基礎にあるからです。

  • ① 医療は人の生命・身体に関わるサービスであり、不当な広告により受け手側が誘引され、不適当なサービスを受けた場合の被害は、他の分野に比べ著しいこと。
  • ② 医療は極めて専門性の高いサービスであり、広告の受け手はその文言から提供される実際のサービスの質について事前に判断することが非常に困難であること。

上の2点は医療広告ガイドラインからの引用ですが、「なるほど。」と頷ける部分もあります。
確かに、素人である一般患者からすれば、お医者さんが言う内容の正誤を事前に判断することは困難であり、医療機関が悪意をもって虚偽・誇大な広告をすれば、一般人は「コロッと騙されてしまう」恐れがあります。
 
とは言え、現在の情報化社会の中で、医療広告をポジティブ・リスト方式のみで規制するというのもやはり問題があります。
病院の名前など限定列挙された項目のみ広告を許可するという方式では、その病院がどういう病院で、自分の症状に合っているのかいないのか、自分が求める医療を提供してくれる病院なのかどうか、全く分からないのです。
 
これは、患者の立場に立ってみれば、決して良いことではありません。
患者にとって必要なのは、必要な医療機関の情報がきちんと開示され、自分の「症状」や「希望する医療」に応じた医療機関にアクセスできることなのです。
 
そこで、医療法は、「ポジティブ・リスト方式」を維持しつつ、広告可能な事項を広げていくことになりました。
「患者に正確な情報が提供され、その選択を支援する」という大きな目的により、医療広告の規制は緩和されていったと言えます。
 
この緩和のやり方として、医療法は「包括規定方式」という方法をとりました。
「ポジティブ・リスト方式」ですが、一つ一つのリストを「包括的」に定めますよ、ということです。
具体的には、旧医療法第6条の5の次のような規定です。

十一  当該病院又は診療所において提供される医療の内容に関する事項(検査、手術その他の治療の方法については、医療を受ける者による医療に関する適切な選択に資するものとして厚生労働大臣が定めるものに限る。)

この条文は、医療機関で「提供する医療の内容に関する事項」についても、広告しても良いという意味です。
このように、「○○に関する事項」と包括化することにより、広告できる内容に幅ができ、当該医療機関の「特性」や「強み」も広告できるうになりました。
 
もちろん、「包括規定方式」と言っても、ポジティブ・リストの一つ一つに「幅」ができたというだけですから、定められた項目しか広告できないことに変わりはありませんが、それでも大きな緩和であることは言うまでもありません。
 
ところが、このように「幅」をもたせた規制ということになると、行政側にも不安が生じます。
これまで、「『病院の名前』や『診療時間』など決められたことだけ広告して良し」と定められていた(ポジティブ・リスト方式)のに、ある程度の幅がある『提供する医療の内容』も書いて良し、となると、どんな無茶苦茶な広告が出てくるのか、不安になります。
そこで、医療法は、「ネガティブ・リスト方式」も採用しました。
先ほど引用した、「虚偽広告」「比較優良広告」「誇大広告」「公序良俗違反の広告」など、「やってはいけない」医療広告を決めておこうというやり方です。
誇大広告や、虚偽広告などが氾濫してしまえば、国民は騙され、大きな被害を受けることになります。
これを規制するというのは、理解しやすいと思います。
 
このように、元々の医療広告規制は、
「ポジティブ・リスト」方式+包括規定方式

「ネガティブ・リスト」方式
の併用という方法を用いていたのです。
このような規制の仕方をしたことにより、医療広告規制は、どんどん複雑化してきました。
しかし、さらに近年、複雑化に拍車がかかります。

4.ホームページへの規制の拡大(平成29年6月改正)

それは、「ホームページ」を広告に含めて規制しようという流れです。
もともと医療法の「広告」には、「ホームページ」は含まれておらず、医療機関のホームページは、「医療機関ホームページガイドライン」という別のガイドラインで、「自主規制」の対象となっていました。
ホームページの中でも、「バナー広告」「リスティング広告」など、お金を掛けているものは、医療法の「広告」に含める取扱いがなされていましたが、それ以外のホームページは、完全に規制の対象から除外されていました。
極端に言えば、医療機関のホームページで無茶苦茶な内容が書かれていても、医療法違反には当たらず、罰則も適用されていなかったのです(景品表示法や消費者保護法など他の法令の違反の可能性はあります)
一方、スマートフォンの普及などにより、インターネットを利用する方の数は飛躍的に伸び、医療機関を選択するにあたっても、多くの方がネットで調べるようになりました。
一方、医療機関のホームページは、医療法の「広告」にあたらず、規制もされていないため、ある意味で、無法地帯と化していました。
このような実態から、厚生労働省としては、なんとしても、「医療機関のホームページ」も、医療法に基づく医療広告規制の対象とすべきと考えたのです。
それが、平成29年6月の医療法改正です。
 
医療法上の「広告」というためには、次の3要件が必要と考えられていました。

  • ① 患者の受診等を誘引する意図があること(誘引性)
  • ② 医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院若しくは診療所の名称が特定可能であること(特定性)
  • ③ 一般人が認知できる状態にあること(認知性)

ホームページが、「広告」から除外されていたのは、ホームページは、利用者が自ら検索して訪問するので(バナー広告、リスティング広告などは除く)、上の③(認知性)がないから、という説明だったのです。
しかし、今回の改正では、上記のうち、①(誘引性)、②(特定性)があれば、「広告」として認めよう、③(認知性)は「広告」の要件から外す、という思い切った方向転換がなされました。

改正医療法における「広告」の要件
  • ① 患者の受診等を誘引する意図があること(誘引性)
  • ② 医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院若しくは診療所の名称が特定可能であること(特定性)

平成29年6月の医療法改正の最大のポイントは、「ホームページも『広告』として規制の対象とする。」という点にあります。
 
とはいえ、ホームページは、これまでの歴史的経緯から、様々な記事が記載されています。
例えば、「院長紹介」など、院長の「思い」が記載されているものもありますし、様々な症例や、医学的な説明など、多くのページが作られています。
規制の対象となった「ビフォー・アフター写真」や、「患者さんの声」も含め、利用者からすれば、とても参考になる良い記事がたくさんあったのです。
 
単純に「ホームページも医療法の『広告』に含めます。」という取扱いをすれば、ホームページにおいても、前に記載した「ポジティブ・リスト方式」が適用されることになります。
これはかなり厳格な規制であり、昔ながらの駅の看板広告のようなものしか表示できなくなってしまうのです。
 
ホームページを医療法の「広告」の対象とするのは、現在存在する医療機関のホームページが全部アウトになるほどの「行き過ぎた規制」になってしまうのです。
 
そこで、医療法改正では、「限定解除」という考え方を新たに設けました。
「限定解除」というと、意味が分かりにくいですが、「ポジティブ・リストの内容しか表示できない」という限定を解除し、それ以外の内容を表示しても良いですよ(ただし、ネガティブ・リストの広告はダメ)、という意味です。
先ほどの改正医療法第6条の5の第3項をもう一度引用してみます。

第3項 「次に掲げる事項以外の広告がされても医療を受ける者による医療に関する適切な選択が阻害されるおそれが少ない場合として厚生労働省令で定める場合を除いては、次に掲げる事項以外の広告をしてはならない。」

「次に掲げる事項以外の広告をしてはならない。」というのは「ポジティブ・リスト方式」のことですが、このポジティブ・リスト方式の「例外」として、「医療を受ける者による医療に関する適切な選択が阻害されるおそれが少ない場合として厚生労働省令で定める場合」という「限定解除の要件」が定められているのです。
具体的には、「限定解除の要件」としては、次の4点が定められています。

限定解除の要件
  • ① 医療に関する適切な選択に資する情報であって患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告であること
  • ② 表示される情報の内容について、患者等が容易に照会ができるよう、問い合わせ先を記載することその他の方法により明示すること
  • ③ 自由診療に係る通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する事項について情報を提供すること
  • ④ 自由診療に係る治療等に係る主なリスク、副作用等に関する事項について情報を提供すること

このような要件を満たすホームページ、言い換えれば、リスティング広告などがされておらず、しかも、医療機関の問い合わせ先が記載され、自由診療については治療の内容、費用、リスク、副作用が明記されているホームページについては、「ポジティブ・リスト」の適用はないということになります。
 
まとめると、現在の医療広告規制は、次のようになっているということになります。

  • ・「ポジティブ・リスト」方式+包括規定方式
  • ・一定の要件の場合の「限定解除」(ポジティブ・リストの解除)
  • ・「ネガティブ・リスト」方式

ずっとウォッチングしている私から見ても、複雑極まりない規制の仕方です。
全く分からなくても仕方ありません。
規制が複雑すぎるのです。

5.医療広告規制の複雑化がもたらしたもの
=医療広告ガイドラインの必要性

このように、医療広告規制が複雑化することにより、大きな問題が生じることになります。
第一は、医療機関の側として、「どのような広告をすれば、法令に反していないのか、よく分からない。」という問題です。
確かにそうです。
医療法は、「提供する医療の内容に関する事項」は広告しても良い(ポジティブ)だと書いています。
しかしながら、一方で、「虚偽広告や誇大広告、比較広告など」はダメ(ネガティブ)だと言います。
一般論としては頷けても、具体的な広告の文言になると、「(広告を)出して良いのか悪いのか、よく分からない。」というのが正直なところです。
「よく分からない」ものを一か八かで出してみるという医療機関は、そうはいません。
医療広告規制は、罰則まで定められた非常に厳しい規制なのです。
多くの医療機関では、「冒険する必要はない。」「他の病院が広告している程度の内容に留めておこう。」と、萎縮した判断がなされることになります。
これでは、「患者に正確な情報が提供され、その選択を支援する」という規制緩和の目的が、全然果たされないことになります。
 
第二に重要なのは、規制する側も、「何が良くて、何が悪いのかよく分からない。」という点です。
医療法の改正については、これを所管する厚生労働省が牽引してきましたが、実際の各医療機関の広告についての指導は、都道府県の保健所が担当することになります。
しかし、あまりにも曖昧な規定であれば、各保健所における判断も困難となってきます。
昔の「ポジティブ・リスト方式」のみであれば、その広告がリストの範囲内かどうか、ということだけを判断すれば良かったのですが、「包括規定方式」の中で、「限定解除」に該当するか、さらに「ネガティブ・リスト」に該当するかどうか、ということになると、各保健所も判断に迷うケースが生じてきます。
 
そこで、厚生労働省は、「医療広告ガイドライン」を定め、さらに、「医療広告ガイドラインに関するQ&A」も公開し、医療広告規制の内容を具体的に解説し、様々な事例を挙げて、その適法性について説明することとしたのです。
 
医療広告ガイドラインの正式な名称は、「医業若しくは歯科医業又は委員若しくは診療所に関して広告し得る事項等及び広告適正化のための指導等に関する指針」です。
「広告し得る事項」を説明するとともに、行政(保健所)側の行う「広告適正化のための指導」についての指針であることも明記されています。

6.医療広告を規制するその他の法令

これまで述べてきたように、医療広告を規制する最も重要な法律は、医療法です。
具体的には、前述の通り医療法第6条の5が挙げられますが、この条文には罰則が定められており、違反した場合には、保健所による指導、立入検査、中止命令、是正命令も定められていますし(医療法第6条の8)、罰則(6月以下の懲役又は30万円以下の罰金)も規定されています(第73条)。
また、医療法をさらに具体的に規定したものとしては、医療法施行規則や厚生労働省告示(いわゆる「広告告示」)もあります。
それ以外にも、一般的な広告を規制する法令として、「不当景品類及び不当表示防止法」「不正競争防止法」がありますし、特定の商取引に関する「特定商取引に関する法律」や、医薬品等に特化したものとしての「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(いわゆる「薬機法」)」など、様々な法令があります。
 
医療広告の適法性を判断するには、以上のような様々な法令について精通している必要があり、そうでなければ思わぬところで法令違反を起こしてしまう恐れがあると言えます。